日々の泡

好きなこと、本のこと、色々

米原万里

前の記事に関連して、もうひとつ。


オリガ・モリソヴナの反語法   /   米原万里


米原万里の本を初めて読んだのは、中学生の頃か。今でも大好きな、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』。魅力的なタイトル。


私は世界史選択でなかったから、近現代の歴史、さらに東欧史なんて言われるとめっきり弱かった。それでも面白い。というより、この本をきっかけとして東欧に興味を持ったと言える。

この『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は自伝小説である。父親が共産党員だった米原万里が、チェコプラハソビエト学校に通っていた時の友人を大人になってから訪ねていく。ギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。子供の頃は知らなかった、彼女たちの関する真実が次第に明らかになっていく。

これが大好きで、何度も読んだ。

大人になったら絶対に東欧旅行にいくぞ、と思っていた(プランまで立てた)。


名エッセイストである米原万里の、もうひとつの小説が『オリガ・モリソヴナの反語法』である。


語学の本かな?と思ってしまうような長くて、覚えにくいタイトル。

知らなかったら絶対手に取らないと思う。


これまた、プラハソビエト学校に通う日本人の志摩が出会った、舞踊教師オリガ・モリソヴナの半生を大人になってから辿る物語。

こっちの方が難しいので、『嘘つきアーニャの〜』を先に読むとすんなり話が入ってくると思う。


オリガ・モリソヴナは天才的な舞踊教師で学生にも慕われていたが、その行動には謎が多かった。ある地名に異常に反応したり、東洋人風な少女と暮らしていたり。

オリガ・モリソヴナとはいったい誰なのか?

どんな人生を送ってきたのか?

大人になった志摩がモスクワに赴き、彼女を知る人物たちと出会いながら紐解いていくと、謎が謎を呼び次々と予想外の真実が現れる。


ひゃー面白い。

けど頭がこんがらがる。


前述の通り世界史をやってないもんだから、スターリンやらフルシチョフやら、えーと、誰がどうだっけ?という感じだったけれど。この本はまるでミステリーのように謎解きが進んでいく。


こんな世界があったんだと、衝撃を受ける。リアリティのある、奥深い小説だ。


ソビエト史を勉強してから、もう一度読もう。




すあまのこども

一目惚れした小説がある。

一目惚れという言い方が正しいかどうかは別として、一度読んで「私、この本大好きだ!」と思う本って案外少ない。


ラビット病  /  山田詠美


スターバックスのある某蔦屋で、はるな檸檬『れもん、読むもん!』をたまたま手にしてパラパラめくったらそのページはあった。

山田詠美の小説の中で、1番好きなのは『ラビット病』だという。

初めて聞いた。

『僕は勉強ができない』しか読んだことのなかった私は、とりあえずそのへんてこなタイトルの本を探し出し、ブラックコーヒーを飲みながら読んだ。


何これ、好きだ!!


ひとことで言えば、主人公「ゆりちゃん」とその恋人「ろばちゃん」ことロバートのラブラブな日々の物語。

「ゆりちゃん」は破天荒で自由な大金持ちの女の子。働きもせず、かといって家事もせず、家の中は散らかりっぱなし、ゴミには虫が湧いてさえいる。

そんなゆりちゃんに振り回されながらも、彼女が大好きで、世話焼きのロバート。


とにかく、2人があんまり幸せで、読んでるこっちも幸せにならなきゃという気持ちになる。


この日、読みかけだった米原万里の『オリガ・モリソヴナの反語法』だけ買って帰った私だが、帰りの電車の中ではすでに「あー『ラビット病』買ってきたら良かった」と思い始めていた。


普段は人に本など勧めない私が、彼氏に激プッシュした。

「今日読んでた『ラビット病』って小説がすっごく面白かったからもう絶対読んで!」

なんて言うか、恋人にこそ読んでほしい小説である。


私の1番好きなのは、「すあまのこども」というタイトルのエピソード。

ゆりちゃんがある日「すあま」を持ち帰ってきて、子供として可愛がり始める。戸惑いながらもロバートは少しづつ「すあま」に愛情を感じ始めるのだ。


いや、意味わからん!笑

と、思うかもしれない。面白すぎて本屋で笑いを堪えやるのが大変だった。

この出来事自体は確かにヘンテコなのだけど、そこに関わるゆりちゃんの心情はすごく胸に刺さって涙ぐんでしまった。

あまりに気に入ったのでこの「すあまのこども」は彼氏にまるまる話して聞かせた。彼も爆笑していた。


その日の夜には「明日本屋に行って買おう」と心に決めた。


翌日バイト終わりに近くの本屋に行ったが、売り切れなのか置いていなかった。


マジか…


そのまま帰ろうとも思ったが、どうしてもどうしても読みたかった。こんな気持ちは初めてだ。これが恋ってやつか。

遠回りして別の本屋で見つけた時には、気持ちがはやりすぎて背表紙のカバーを少し破いてしまった。


いそいそと家に帰り紅茶を淹れて本を開く。


ゆりちゃん、ろばちゃん、最高だー!


この本の凄いところは、全く自分とは似ても似つかぬ2人の話なのに、共感できるところばっかりなこと。ゆりちゃんは確かに変人だけれども、ゆりちゃんの行動や心情は「分かる分かる!」と思うところばかりだ。

私が心の中で思っていてもできないことを、ゆりちゃんはロバートにぶつけている。それはロバートだがらできることなんだろうと思う。


とにかく、何度読んでも、幸せな気持ちになれる本。久しぶりに「耳」が食べたくなった。