日々の泡

好きなこと、本のこと、色々

すあまのこども

一目惚れした小説がある。

一目惚れという言い方が正しいかどうかは別として、一度読んで「私、この本大好きだ!」と思う本って案外少ない。


ラビット病  /  山田詠美


スターバックスのある某蔦屋で、はるな檸檬『れもん、読むもん!』をたまたま手にしてパラパラめくったらそのページはあった。

山田詠美の小説の中で、1番好きなのは『ラビット病』だという。

初めて聞いた。

『僕は勉強ができない』しか読んだことのなかった私は、とりあえずそのへんてこなタイトルの本を探し出し、ブラックコーヒーを飲みながら読んだ。


何これ、好きだ!!


ひとことで言えば、主人公「ゆりちゃん」とその恋人「ろばちゃん」ことロバートのラブラブな日々の物語。

「ゆりちゃん」は破天荒で自由な大金持ちの女の子。働きもせず、かといって家事もせず、家の中は散らかりっぱなし、ゴミには虫が湧いてさえいる。

そんなゆりちゃんに振り回されながらも、彼女が大好きで、世話焼きのロバート。


とにかく、2人があんまり幸せで、読んでるこっちも幸せにならなきゃという気持ちになる。


この日、読みかけだった米原万里の『オリガ・モリソヴナの反語法』だけ買って帰った私だが、帰りの電車の中ではすでに「あー『ラビット病』買ってきたら良かった」と思い始めていた。


普段は人に本など勧めない私が、彼氏に激プッシュした。

「今日読んでた『ラビット病』って小説がすっごく面白かったからもう絶対読んで!」

なんて言うか、恋人にこそ読んでほしい小説である。


私の1番好きなのは、「すあまのこども」というタイトルのエピソード。

ゆりちゃんがある日「すあま」を持ち帰ってきて、子供として可愛がり始める。戸惑いながらもロバートは少しづつ「すあま」に愛情を感じ始めるのだ。


いや、意味わからん!笑

と、思うかもしれない。面白すぎて本屋で笑いを堪えやるのが大変だった。

この出来事自体は確かにヘンテコなのだけど、そこに関わるゆりちゃんの心情はすごく胸に刺さって涙ぐんでしまった。

あまりに気に入ったのでこの「すあまのこども」は彼氏にまるまる話して聞かせた。彼も爆笑していた。


その日の夜には「明日本屋に行って買おう」と心に決めた。


翌日バイト終わりに近くの本屋に行ったが、売り切れなのか置いていなかった。


マジか…


そのまま帰ろうとも思ったが、どうしてもどうしても読みたかった。こんな気持ちは初めてだ。これが恋ってやつか。

遠回りして別の本屋で見つけた時には、気持ちがはやりすぎて背表紙のカバーを少し破いてしまった。


いそいそと家に帰り紅茶を淹れて本を開く。


ゆりちゃん、ろばちゃん、最高だー!


この本の凄いところは、全く自分とは似ても似つかぬ2人の話なのに、共感できるところばっかりなこと。ゆりちゃんは確かに変人だけれども、ゆりちゃんの行動や心情は「分かる分かる!」と思うところばかりだ。

私が心の中で思っていてもできないことを、ゆりちゃんはロバートにぶつけている。それはロバートだがらできることなんだろうと思う。


とにかく、何度読んでも、幸せな気持ちになれる本。久しぶりに「耳」が食べたくなった。